第一幕・始まりの音

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「理Ⅲていったら医学部じゃねぇか。俺は医者になる気ないし、それに勉強には嫌気が差したんだよ」 「今の若い者はチャレンジ精神がなさすぎるな」 「おい、こら!人の話聞いてんのか」 嘆息する小嶋に一発殴ってやろうかと思ったが、職員室なのを思い出し理性で抑える。 担任の小嶋は中年のおっさんだが、なぜか憎めない性格で、俺も口では文句を並べても呼び出されれば必ず行っていた。 それも小嶋の人柄がそうさせるのかもしれない。 もちろん、うっとうしい時だってあるけど。 「何かあったのか?成績優秀だったお前が、これだけ成績が落ちたんだ。何があったんだ?」 小嶋は声のトーンを下げ、心配そうに俺を見上げた。 「別に…ただ勉強がつまんなくなっただけだよ」 「でも今のこの成績だと卒業は厳しいぞ。せめて赤点だけは取らないようにしてくれ」 「はいはい。んじゃ、俺はもう帰るから」 「堂島、まだ話は終わっとらん!」 「俺は終わったんだよ」 一方的に言い放って職員室を出る。 小嶋の話はいつだって成績の話ばかりで、聞き飽きた。
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