第一幕・始まりの音

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「なぜ、ここに来た?」 「たまたまだよ。通りかかっただけだ」 「…嘘をついてる様子はないな」 (何なんだよ、この女は) ふと気がつけば天堂の顔を近くで見るのも、こうして話すのも初めてだった。 学園のマドンナと謳(うた)われるだけあって、綺麗な顔をしている。 いや、綺麗というより“奇麗”の方が合ってるかもしれない。 無表情だが日本人形のようで、不思議な魅力がある。 「見てしまったのだろう」 俺は天堂の言葉の意味を察した。 「背中に生えた羽根の事か?」 「やはり見られてしまったのなら、隠す必要もない。私は天使だ」 一瞬、笑った方がいいのか?と思った。 冗談にしてはもっとマシな冗談が言えないのかと。 でも俺がそうしなかったのは、天堂が真剣な顔をしていたからだ。 いや、無表情だから嘘をついてるか否か分からない。 だけど俺の考えはすぐに否定された。 天堂の背中には再び羽根が広がっていたからだ。
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