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月下美人な彼はそう言うと、高めの位置で指を鳴らした。
その音に向日葵な彼女が反応する。
「はいな、お任せくださいっ」
瞬間、鼓膜を破るような音がした。
「……」
焦げ臭い香りに、目の前をひらひら舞う紙テープ。カウンターの向こうには満面の笑みを浮かべるウェイトレス。
「えへ、びっくりしました?」
「しますよ普通!」
何故この人達はいきなりクラッカーを鳴らす必要があったのだろう。
歓迎されているのだろうというのはなんとなく分かるのだけれど、こんな形の『最高のおもてなし』があるのだろうか。歓迎されている張本人(私のことだ)は寿命が軽く四日くらい縮まる思いをした。
ウェイトレスは私のこわばった顔を覗き込むように見ると、バーテンダーさんの方に振り返った。
「店長ぉ、意味分からないみたいですよ?」
果たして、意味を理解できる人がいるのだろうか。もしいるのなら是非お友達になってもらいたい。
ウェイトレスに話を振られた彼はただ無邪気に笑うだけだった。一体何がそんなに面白いのだろう。
いくら心が穏やかになろうが、帰りたいのに変わりはなかった。
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