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上品で心地よいドアベルの音に、私ははっとした。
「え……?」
急に視界が悪くなったせいで目眩を起こしてしまった。
この薄暗い環境の中に、私はぽつんと一人。
何故、どうして。
確か私は学校に向かっていなかっただろうか。普段どおりの時間に家を出て、普段どおりの道を、普段どおりの歩幅で歩いていやしなかっただろうか。
突然の出来事に戸惑いながらも、必死で記憶を手繰り寄せた。
玄関を出て、そのまま直進。通りすぎるといつもいい匂いのする角のパン屋さんまでは覚えてる。
その角を曲がって……今に至る。
……っていやいやいやいや! そんなことがあるはずがない。
いつもならその角を曲がった後に……。
後に……あれ?
何があったんだっけ?
ここは、どこなの……?
私、どうしちゃったの──?
きっと私の叫びは、声になっていなかっただろうと思う。
夢遊病にでもなったのだろうか、そんな気分だった。
私は、何故か急にまったく知らない場所に迷い込んでしまった。
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