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「いらっしゃいませ」
後方で高い声がして、私は突然の出来事に驚くしかできなかった。
振り返るとそこには、一人の少女が立っていた。
袖がふくらみ、所々フリルやレースのきいた黒いワンピースにひらひらした白いエプロン。頭上にはやはりレース付きのカチューシャを身に付けている。足元には、ヒールの高すぎない黒い靴。
くっきり二重瞼の目にはラメ入りのマスカラが施されていて、まばたきをする度に長い睫毛が煌めく。
目以外の部分は必要最低限の薄化粧で、無理矢理大人ぶったという不自然さがなく幼い顔に上手く溶け込んでいた。
きっと私と同い年か、もう少し下くらいだろう。
にっこりと微笑んだ少女の笑顔は向日葵のように光っていた。
「誰……ですか?」
「お席に案内しますね。……店長、カウンターで良いですか?」
私の顔を覗き込むように見つめ、また明るく笑った彼女は、私の話などまるで聞いていないようだった。
「どうぞ、こっちです」
「え? あの……」
「遠慮しないでください、取って食ったりしませんから」
目の前の彼女の瞳は、まるで新しい玩具でも見つけたかのように輝いていた。
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