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抵抗も虚しく、私はあっさり椅子に座らされてしまった。
ほどよい高さのカウンターの向こう側では、一人の男性が黙々とグラスを磨いている。
彼が私を横目で見る。視線が合ったほんの一瞬、目を細めて微笑った彼に不覚にもドキッとした。
外見とかそういうことには疎いけれど、世間一般では彼は相当男前な部類に入るのだと思う。
ありふれた表現だけど、まさに『端整な顔立ち』をしている。
パーツのひとつひとつのバランスがよく、睫毛の長い中性的な顔。全体的に細身な彼は、格好良いより綺麗という言葉がよく似合う。
女の子の笑顔が向日葵なら彼は月下美人といえばよいか──とにかく、対照的な華やかさがあった。
真っ白いワイシャツに黒いベスト。きっとバーテンダーみたいな人なのだろう。バーになんて行ったことがないから、イメージでしかないけれど。
それじゃあ女の子はウェイトレスで、ここは何かのお店ってことになる。
それが分かったところで進歩したかどうかなんて、私には分からない。
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