2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
今の僕はあの頃の空を一体幾つ覚えいるのだろう 僕はある日、病に蝕まれると共に徐々に視力を奪われ始めた。 失明するのは時間の問題で身寄りもない僕には死を先刻された様にさえ思えた。 そんな僕にも唯一心の支えがあった。 昔からいつだって優しく僕を見守っていてくれた"空"があった。 今思えば確かに馬鹿げている。自分の上に広がる空に恋焦がれていたのだから、本当に笑える。だけどあの頃の僕には彼女しか居なかったのだ。 「僕には親も兄弟も友達もない。この上視力さえも失くそうとしている…。だからいつかこうして君を見上げることも意味を失くすんだ」 病院の中庭で空を仰ぐのが僕の日程だった。 「だからせめて、一秒一秒正確に君を記憶しよう。見上げればいつでも思い出せるように…」 その日から僕は今までに増して空を見上げることが多くなった。視力を失って行く瞳で脳裏に空を焼き付けた。そうすれば、独りと認めなくてすむから。 少なくとも空がいてくれると思ったから…。 それから数ヶ月の内に僕の瞳は光を映さなくなった。 そしていつしか僕が空を見上げることもなくなった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!