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「……それから、どうなったのです?」
道中語りにラウラが三年前のことを話すと、ソールは静かに訊いた。
「目を覚ましたら、朝でした。私は毛布も何もなかったけれど、眠ってしまったのに一晩を死なずに明かしてしまったんです」
「…………」
「私は、信じています。チリエの木が、私を守ってくれたんだって」
踏み出す度に鳴る雪の音が、沈黙の純度を表していた。
風の音だけが聞こえる。
ソールが口を開いた。
「きっと、そうだったのだと思いますよ」
静かに、笑った。
「ええ。だから私は、ここにいるのです。チリエをずっと、守るために」
チリエに惹かれ、チリエを愛した。
家族のように。
「あの木は私の恩人で、家族です。勝手に思っているだけですけれど」
「……いいえ」
「え?」
ソールは立ち止まり、ラウラの目を見て言った。
「チリエも、喜んでいますよ」
ふっと、幼い笑顔を見せて。
「……ありがとう」
ラウラも、笑った。
チリエは強い雪と風にも関わらず、赤い花を誇るように、美しく咲いていた。
「ああ……」
ラウラの溜め息が、白い霧となって、消えていった。
何度見ても。
それは、美しいのだ。
必然であるかのように。
駆け寄り、白の世界から切り放された根本に円形に広がる土に触れた。
この木が、温かいのだ。
だから、雪が溶ける。
ちらほらと、緑が生えてさえいるのだ。
「今年も綺麗に、咲いてくれましたね」
今年も会えたことに感謝をしながら、彼女はそっとその花に触れた。
赤い花は、心なしか温もりを持っているように感じて、ラウラは目を細めた。
後ろで雪を踏む音がした。
振り返ると、木を見上げるソールの姿。
その目は真っ直ぐ花を見つめ、口許に浮かぶのは安堵。
ラウラは訊いた。
「ソールさん、あなたが探していた方は、どこに?」
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