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チリエの木。
村の者しか知らない木。
どうして、この人が知っているのだろう。
ソールは顔を上げてラウラを見た。
「面識もない私に親切にしてくださって、本当に感謝いたします。……そして、ご迷惑を承知の上で、もう一つお願いしたいことがあるのです」
ソールは静かに言った。
火の熱で、部屋の空気がゆらりゆらりと揺れている。
二人の前にある紅茶がふわりと香る。
暖かなこの部屋の中で、ラウラは向かい合った青年に不思議な魅力を感じていた。
それは優しく、柔らかく、温かなもの。
そう、この空気のような。
「どうか明日、私をチリエのところまで案内してもらえませんか」
ソールの瞳は、青と緑が混ざったような、なんとも言えない美しい色を湛えていた。
まるで、それは吸い込まれてしまいそうなくらいに。
ああ、綺麗な人だ。
ラウラは、思わず一つ小さな溜め息をついて言った。
「大切な人なんですね」
「会わなければならないんです。きっと、私を待っていてくれている」
訴えるかのように、呟くように言ったソールに、ラウラは笑いかけた。
「わかりました。明日の朝でよろしいですか?」
ラウラは、興味を持ったのだ。
この美しい人が大切にする人間に。
何故、チリエの木がそれに関係があるのかという小さな疑問の答えに。
そして何よりも、チリエのあの真っ赤な花が見たかった。
ソールは静かに頭を下げた。
火の燃える音が、なんだかとても優しく、部屋に響いた。
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