Laura

4/4
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
   チリエの木。  村の者しか知らない木。  どうして、この人が知っているのだろう。  ソールは顔を上げてラウラを見た。 「面識もない私に親切にしてくださって、本当に感謝いたします。……そして、ご迷惑を承知の上で、もう一つお願いしたいことがあるのです」  ソールは静かに言った。  火の熱で、部屋の空気がゆらりゆらりと揺れている。  二人の前にある紅茶がふわりと香る。  暖かなこの部屋の中で、ラウラは向かい合った青年に不思議な魅力を感じていた。  それは優しく、柔らかく、温かなもの。  そう、この空気のような。 「どうか明日、私をチリエのところまで案内してもらえませんか」  ソールの瞳は、青と緑が混ざったような、なんとも言えない美しい色を湛えていた。  まるで、それは吸い込まれてしまいそうなくらいに。  ああ、綺麗な人だ。  ラウラは、思わず一つ小さな溜め息をついて言った。 「大切な人なんですね」 「会わなければならないんです。きっと、私を待っていてくれている」  訴えるかのように、呟くように言ったソールに、ラウラは笑いかけた。 「わかりました。明日の朝でよろしいですか?」  ラウラは、興味を持ったのだ。  この美しい人が大切にする人間に。  何故、チリエの木がそれに関係があるのかという小さな疑問の答えに。  そして何よりも、チリエのあの真っ赤な花が見たかった。  ソールは静かに頭を下げた。  火の燃える音が、なんだかとても優しく、部屋に響いた。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!