Primavera

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   次の日になっても、雪はやまなかった。  ラウラはマフラーに顔を埋めて息を吐く。  吐いた息さえ、そのまま凍ってしまうのではないかと思うような寒さ。  それなのに、ソールはこの季節、この村では考えられないほど軽装だった。  道行く人が驚きの目で彼を見る。 「ソールさん、あなた」 「私は、寒さにはとても強いのです。心配はいりません」  ソールはそう言って、まっすぐに何もない空間を見た。  その先にあるのは、まだ見えぬチリエの木。 「……本当に、大丈夫ですか?」  その背中に、念を押す。  外から来た人が自分のせいで死なれたら堪らないという思いを込めながら。 「大丈夫ですよ」  振り返って見せた笑顔に、ラウラは苦笑と溜め息を返した。 「……行きましょうか」  ラウラの言葉に、彼は表情を引き締め、一つ小さく、力強く頷いた。  この村は、冬は雪と氷に支配される。  寒さに加え、この空の使者が神となる季節、それが冬なのだ。  雪に足をとられ歩きながら、ラウラはチリエのことを考えていた。  ラウラが最初にチリエを見たのは、本当に偶然であった。  活発で、幼い頃から自然の中で遊ぶのが好きだった。  だから、両親を早くに亡くした彼女は、多くの場所を渡り歩く人生を選んだ。  海を渡った。  喧騒が広がる町を抜け、深い森を歩いた。  そして、三年ほど前。  雪が降る季節、ラウラはこの村にたどり着いた。  ソールに対してそうであったように、この村の人々は初め、ラウラに温かい言葉をかけることはなかった。  家を何件回っても、入れてくれる者はなかった。  
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