Primavera

3/6

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
   こんなことは何度も旅の中で経験していたラウラも、寒さには勝てない。  さてどうしようかと溜め息をついたとき、遠くにぼんやりとした明かりを見た。  何故だろう。  ラウラは、感じた。  根拠も何もなく。  あそこなら私を助けてくれる、と。  寒さでもう麻痺してしまったかのような足を懸命に繰り出して、ラウラは静かに進んでいった。  雪混じりの風が冷たく、頬を刺した。  あそこまで行けば、きっと。  きっと、助かる。  半ば無意識だった。  どこかおぼつかない足取りで、ラウラは進んだ。  明かりの元にたどり着く、その目的のためだけに。  そして、三十分も歩いただろうか。  彼女はやっと、その正体を見た。 「嘘……」  不思議な、光景だった。  そこにあったのは家ではなく、大きな一本の木だった。  その枝には赤い色が湛えられ、わずかに光って見えた。  ラウラは導かれたかのようにその木に近付いた。  ここにはもう、自分しかいない。  それなのに、不思議と悲しくはならなかった。  この木に出会えたことに、喜びさえ感じていた。  そして、気付いた。  木の周りだけ、雪が全くないことに。  恐る恐る木の肌に触れる。  確かにそれは温かかった。 「不思議ね……」  小さく呟き、ラウラは木を背にして座った。  このまま寝てしまったら死んでしまうことくらい、わかっていた。  しかし、この疲れに勝てるはずもなかった。  目を閉じる。  不意に、何か温かいものに体を包まれたような気がして――。  ラウラは、眠った。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加