男に紡いだ女の言葉

１

傘に慌ただしく雨音が鳴る中、私は恋人を待っていた。
１年記念日をお祝いしようと云うことで、恋人の拓也が地元の居酒屋で呑もうと誘ってくれたのだ。

しかし待ち合わせの時間になっても彼は来ない。
まだ10分足らずなので、仕事が長引いているのか、電車が遅れているのかとそんなことを考えていた。

目の前の道を通る人々を私はぼんやりと眺めた。
仲よさ気に一つの傘に入るカップルや、飲み会の帰りだろう酔っ払ったサラリーマン達。ずぶ濡れになった野良猫や、自転車に乗りながら器用に傘をさす女子高生。

風も冷たく、傘を持つ手が段々と冷えてきて、私は彼が来るだろう方向をじっと見つめていた。けれども彼は来ない。

「連絡くらいあってもいいのに」

私はぽつりと愚痴を吐いた。