それぞれの道

2/3
前へ
/7ページ
次へ
あれから、一年が過ぎた。 俺にとって、この一年は退屈で何もなかったからっぽの一年だった。 これからもそれは続くだろう。 俺は一人原宿の街を歩いていた。 由美との思い出に浸る様に。 由美はいつも俺にこう言っていた。 「私、この原宿ですごい美容師になるから!」 「すごいって、お前。具体的にどうしたいんだよ。」 「う~ん。どんなお客さんの髪型も出来て、口コミであの美容師いいよって、広まるぐらいに。」 「まだまだ、当分先だな。」 「見ててよね!そのうちにすごいって言わせるから!」 そんなやりとりをしていた事が懐かしく、そういえば、原宿で美容師をしていたんだなと思っていた。 ふと、一つの看板が目に入った。 『New  Open』 『hair salon』『 WITCH 』 あれから、髪型も変わってないし、思い切ってパーマでもしてみるか。 そう思った俺は店に入った。 「いらっしゃいませ~」 明るい店内と人柄の良さそうな店員さんと楽しそうな笑い声が響く。 「すいません。看板が目に入って、来てみたんですけど、予約とか必要でした?」 「いえ。大丈夫ですよ。予約優先ですけど、予約の無い方も大歓迎です!」 「ありがとうございます」 「今日はどうされますか?何か、決まった髪型とかはありますか?」 「カットとパーマでお願いします。パーマは外ハネな感じで無造作っぽくしたいなと。」 「分かりました。準備が出来たら、お呼びしますので、あちらの席でお待ち下さい。」 「はい」 席に着いた俺はふと昔を思い出した。 「なぁ~、いつ店でカットしてくれんの?」 「えっ?」 「えっ?じゃなくて、言ったろ!私が隼人の髪切って皆に自慢の彼氏ですって言うってさ。 いい加減、家で切られるの飽きてきたんだけど。」 「もうちょい待ってて。今、うちの女の子のスタッフが彼氏と別れた子がいて、今来たらその子に悪いなって。」 「そーいう理由なら仕方ないな。でも、そのうちマジで連れて行けよ!」 「りょ~~かい」 そんな昔を思っていたら・・ 「お客様。準備が出来ましたのでこちらへどうぞ。」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加