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下を向いていた俺はゆっくりと顔を上げた。
「由美!!!!」
「隼人!!」
まさかと思った。
原宿で働いてるとは聞いていたが、数ある店の中でここだったとは・・
お互いに緊張した様子で沈黙があった。
その沈黙は数秒だったかも知れないが俺には長く感じられた。
沈黙を破る様に由美が口を開いた。
「先にシャンプーしますのでこちらへどうぞ」
「はい」
お互い、平然を装ってシャンプー台に向かった。
シャンプーをしている間も流れる会話はお客と店員といった感じだった。
「かゆい所はありませんか?」
「お湯は熱くないですか?」
俺は「はい」としか言えなかった。
カット台に案内され、後ろに由美が立ち、髪を切り始めた。
最初で最後のカットなんだと思いながら。
由美が重たい口を開いた。
「お店でカットするの初めてだね。」
「そうだね。かっこよくモテる感じで頼むな!」
由美の一言で安心したのか、その時間はゆっくりと流れているかの様に幸せだった。
幸せだった時間はあっという間に過ぎ、全ての作業が終わった。
会計を済まし、帰り際に由美にあいさつをして、店を出た。
すると、由美が店から出てきて、俺を呼び止めた。
「隼人!」
「何?どうしたの?」
「今、時間ある?私、これから休憩なんだけど、お茶でもどうかなって。」
「別にいいけど。」
俺達は店からそんなに離れていないカフェに入った。
席に着いた俺達は注文を済まし、暫く黙り込んでいた。
俺は耐え切れずにタバコに火を点けた。
すると由美が
「タバコ、あの時のまんまなんだね。」
「まぁ~ね。これが好きだから。」
「元気だった?」
「今はねって、感じ。正直、あの時は手紙に驚いて頭が真っ白になったよ。けど、今は大丈夫。」
「そっか。ならよかった。まだ、あそこに住んでるの?」
「住んでるよ。今はちらかしっぱなしだけどね。」
二人は今までの一年間を埋めるかの様にずっと話していた。
時には笑い、時にはケンカした事を思い出しながら。
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