使役

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 どれ程歩いただろう。  水の香りが微かな風に乗って世都の鼻をくすぐる。  迷わずに歩くと、青く光り輝く薄暗い場所が広がっていた。  そこには青く輝く水面が悠久に広がっている。  世都は淵に屈み込むと、手を水に入れぱしゃぱしゃと波を立てた。  暫らくそれを繰り返していると、大きな波が立ち、鰐(ワニ)の様な大きな顔が見えた。  その顔には鱗(ウロコ)が有り、それが光輝いている。 「潤」  世都はその生き物に声を掛けた。  瞬間、ざばっと水面に体を半ば迄出し、それは世都を見据えた。 『俺の名を読むな』  それは龍の様に長い体を持っていた。 「私の使役になってもらう」  世都が淡々と用件言うと、潤と呼ばれたそれは、さも可笑しそうに、カラカラと笑った。 『使役は生まれ乍にして決まっている。それは解っていよう?今すぐ立ち去るが良い』  戯言を言うなと言わんばかりに、潤は言った。  そして、潤は水に戻ろうと身を沈め始めた。 「潤は誰にも遣えていない」 『だから何だ。私はもう永く人には遣えていない。これからも。遣える気持ちは全く無い』  言い乍(ナガラ)、潤は波を立て、更に水中へと入っていった。  それを見た世都は、後を追う様にローブを脱いでから、水に足を踏み出した。  腰まで水に使った所で、世都は水中に潜った。 珪翔の羽根を口に咥えて。
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