使役

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 追い掛けたそれは、龍の体に魚の大きなヒレを背に一つ、首に二つ持っていた。  後から世都が着いてきたのに気付いた潤は、止まってこちらを向いた。 『くどいぞ』  言った潤を無視し、世都は珪翔の羽根を薙(ナ)ぎ払った。  瞬間、火が生まれ、その回りの水が蒸発し、泡が出来た。  それは潤の元にも届き、その間を通った金色の光が、潤の背を深々と切り裂いた。  潤の背からは赤い液体が水中に流れ出す。  世都は出来た泡を口に含み、息を確保した。 『力づくで私を下す積もりか』  言った潤はヒレを強く振り、水を動かした。  世都は、必然とそれに飲まれ、紙屑の様になった。 『私の域で私に適うと思ったか』  言って潤は又、カラカラと笑った。  その瞬間、世都は幾度か羽根を振った。  羽根の先から出た物は、潤の口に吸い込まれ、内部を犯す事となった。 『ぐはぁっ!』  潤は血を吐き出し、痛みと怒により、狂った様に咆哮(ホウコウ)を上げた。 『もう手加減せぬ!』  言って、潤は咆哮を上げ乍、刃物の様な鋭利な鱗(ウロコ)を世都へと飛ばした。  鋭利なそれは体を切り裂き、深々と突き刺さる。  顔を庇った両腕は、無残に、鱗が幾つも刺さっていた。世都はその痛みに思わず顔を歪める事となった。  血が微かに世都の回りの水を薄い朱に染める。
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