使役

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「恢濫、大丈夫だよ。もう治ってる。あいつに責任を取らせた」  言って傷跡を見せた。  そこには只、血糊のみが有った。  恢濫は慌て世都に駆け寄り、その部位を見た。 「ね?」  それに恢濫(カイラン)は、しかし、と言った。 『それを付けたのは……』  言い乍(ナガラ)、今噛み付いた相手を忌々し気に見た。  相手は血を流し乍、こちらを見ている。出血は止まったと云えど、世都との抗争跡も痛々しい。 『潤? か? あいつであろう?』 「うん。潤がした。暴れるから首輪付けた。もう大丈夫だよ」  言って、にっこりと笑んだ。 (笑えるのか!?)  潤は内心驚いた。  そんな甘える様な表情が出来るとは、思いもしなかったから。 『戒(イマシ)め?』 「ん」  世都は、恢濫に甘える様に寄り掛かった。 『あいつ、不味かった』 「魚じゃないから」  世都は、くすくすと笑った。 「潤、下したよ。風と水を操る癒しの聖獣」 『そうか。だから世都が元気なんだな』  言った恢濫に、世都はそうと言った。  そんな世都をやんわりと離し、足に付いた血を舐め取った。 『世都の血は美味しい』 「あげないよ」  世都はくすぐったそうに、くすくすと笑った。 「くすぐったいよ」  まるで戯れる様な世都達を、呆然と潤が見ていた。  瞬間、世都がこちらを向いた。そして、自分に向けられた世都の瞳で我に返った。 『お前、』 「お前ではない」  一々訂正され、潤は話しにくさを感じた。
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