懐かしい温もり

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 世都は珪翔(ケイショウ)の鬣(タテガミ)を梳き乍、その鬣に顔を埋めた。  赤い鬣は、燃え盛る火の様だ。  その様子を、さっきまで苦しんでいた潤が横たわったままで見ている。 『お疲れさま』  恢濫(カイラン)は苦笑いをするかの様にして、潤へと声を掛けた。そして、恢濫もその場に足を折って寛いだ。 『あいつ、さっきとまるで違う』  さっき? と恢濫は訊ね返した。下した時、と潤は答えた。 『十六だって? とてもそんな子供には見えかった。変な武器たった一つで、黄金を持つ聖獣を下すなど、先ず考えられない。それに、もっと冷静だった』  潤は憎々しげにふぅ、と息を吐いた。  恢濫は小さく笑い、色に拘るな、とあきれ気味だ。 『しかし、思って当然の事であろう?』  青い瞳を恢濫へと潤は向けた。 『当然か? まあ、どんな時も、それが世都らしさだ。いつだって世都は自分を作っていない』 『しかし、俺にも誇りが有る。あんな子供に、あんな変な武器一つで……』 『本当に拘るなぁ』  恢濫は呆れたように笑った。 『あれは珪翔の尾羽根だ』  髭を上下に動かし乍、恢濫は言った。 『は?』 『だから、珪翔の』  潤は頭をもたげて、世都と珪翔を見た。
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