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部屋には静寂のみが残った。
世都は歯噛みし、ベッドへと突っ伏した。
開いたままの緑掛かった茶色の瞳は、悔しそうに一点を見つめていた。
《世都……》
どこからか、世都を呼ぶ声がした。が、姿が見えない。
すると、糸の様な赤い筋が空中に浮かんだ。かと思うと、それが大きく開き、狼の様な姿の獣が見えた。
耳の両下と後頭部に二本、鋭利(エイリ)な角を生やした生き物がズルリと出て、軽やかな音を立て、床に降り立った。
『世都、調子は?』
「良くない」
世都は微動だにせずそう言った。
その声は、直接世都の頭に話し掛けているのか、口が言葉を紡ぐ形にはなっていなかった。
「珪翔(ケイショウ)の怪我、まだ癒えない?」
『未だ。微動だにしない』
「そう」
言って深く溜息を吐いた。
『世都、気にしすぎると体に負担になる』
言って、獅子の様な黄金の足をゆっくりと動かし、世都の傍(ソバ)で伏せた。そして、顔を世都の顔近くにやった。
その生きものは伏せると、更に大きく感じる。
世都が横たわるベッドより大きい。
馬の様な尾は、ぱたりぱたりと床を叩いていた。
「恢濫(カイラン)、恢濫の調子は?」
『動ける』
恢濫と呼ばれたその獣は、素っ気なくそう答えた。
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