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母を憎んだことはない。
離婚したのにもきっと理由があったに違いない……
実際、美奈子には心当たりがあった。
あの頃の父は事業に成功し、仕事に没頭するようになっていた。
家族の会話も無くなり、家に帰る回数も減っていた。
母も寂しかったのだろう。
やがて母は家を出て行き、二人はダメになっていた。
だから離婚は仕方なかったと思う。
その後、美奈子は残された会社を受け継ぎ、社長になった。
父の残した会社を潰さないように美奈子は頑張って働いた。
気付けば四年の月日が流れていて、会社は大企業にまで発展していた。
―――――――――――――――
「おはようございます、お嬢様」
リビングにいた家政婦の片桐さんが朝食の準備をして待っていた。
「おはよう」
私はいつも座る席に着き、テーブルの上に置いてある新聞に目を通した。
片桐さんは美奈子が社長になった四年前からの付き合いで、身の回りの世話はほとんど任せている。
二人が会話するのは朝の挨拶や出掛けるときぐらいで、プライベートな話は一切しない。
だから片桐さんがどんな人なのか四年たった今でもわからない。
仕事に追われる日々を過ごしていた美奈子にとってはどうでもよかったのかもしれない。
片桐さんは朝食を美奈子の前に運ぶと、リビングを出ていった。
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