36.5/桐川

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「『36.5度』」 可愛らしい少女の声がそう言った。 つい数日前。涼しみに入った図書館。 そこには全く似合わない姿の少女たちが分厚い辞典を開いたまま会話を楽しんでいた事を思い出す。 『エジプトって超熱いらしいよー。』 微妙に日本語を間違えた、色黒の少女。 一緒にいる友人を思わしき少女もまた色黒だったが、一層――多分。日焼けサロンとかで焼いたのだろう――黒々しい彼女は辞書に膝を付きながら突然、友人話題をふった。 『エー。でもクーラー有っから平気っしょ?』 白髪に近い髪を指で遊びながら友人は答えた。 (適当に選んだ医学書を開きながら、川田は思わず『有るかッ!』とツッコミを入れた。) 『でもぉ。それって今だからだしょ?昔はどうしていたと思ー?』 『エーどうしていたのぉ?』と語尾を上げながらしゃべる友人に、ハイビスカスの髪飾りを直しながら、少女はニヤリッと笑った。 『36.5度』 友人が分からない。と言うように目を見開いた。 その様子に満足したように言葉が続けられる。 『エジプトってぇ。平均気温…えっと』 『何度だったかなぁ』と少女は口ごもる。 『まぁ。スンゴイ高いらしいのぉ』 『50度位?』と尋ねる問いに、少女は首を立てに振った。(いいんかそれで……?) 『で、人間の平均体温って。36.5度くらいだからぁ。熱いときってぇ』 『抱き合うんだって』
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