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開ききった瞳孔は、昇り始めた陽を浴び異様な――一種の宝石の様に美しかった。
腕の中に未だ抱えたままの死体――滝口優一郎に光子は微笑み続けた。
童顔で。ちょっと背が低くて。気弱そうな彼。
その彼が自分を守ろうとして被弾した様は王子様の様。
「あなたちょっと、すてきだった」
嘘ではない。
「あたしちょっと、うれしかった」
嘘ではない。
「忘れないわ、あなたのこと」
嘘。
王子様では光子の本当の心の底までは届かなかった。
きっと彼の側を離れ、手に入れた武器――S&WM19.357マグナムを握り直し、自分が殺し、最早顔では身元の判断がつかないで有ろう死体――旗上忠勝の横を、髪を掻き上げ優雅な歩みで通り過ぎる頃には王子様の名前すら忘れている。
そうして暮らしてきたのだから。
喧嘩で半殺しにさせた相手を忘れる様に。
カツアゲした女子高生の名を忘れた様に。
売春相手の名前を忘れる様に。
忘れて暮らしてきた。
一番嫌な過去だけを大切に抱えて。
それでも
「川田くん」
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