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桃/七川
「川田って。桃だよなぁ」
今年初熟れで、拳程の大きさの桃(一個100円。言って置くが格安や。)の柔らかな皮を丁寧に剥きながら、七原は唐突に言い放った。
「はぁ?」
思わず上がってしまった声の語尾に、胸中驚きながら、視線を桃に落としたまま何事かをほざいた七原に、川田は口にした煙草を思わず落としかけた。(ついでに、手に持っていた食事後の食器も危うく落としかけた。)
「だから。桃だよなって」
ぺり。ぺり。
まだ十分に、熟れきっていないそれの皮は、少しづつしか肉身から離れようとはしないらしい。
桃の皮剥きにてこずる七原を横目に、川田は何とか体制を立て直すと、狭い台所に引っ込んだ。
「……何でそーなんや」
少し緩みぎみの蛇口に『調節しないとヤバイか』と思いつつ、何処かで動揺している自分を否定する様に洗物を始める。
あー。相変わらず綺麗に食いよるねこいつは。
100円ショップで適当に買ったシンプルで何も柄の付いていない皿は、トマトソースをかけたパスタを乗せていたにしてはかなり綺麗で、先程皿を嘗めそうな勢いだった七原の頭を『行儀悪いわ!!』と殴った事を思い出す。
「だってさ。まんまなんだよ」
触った感じまだ硬めたっだ桃の、齧り付かれる音が微かに聞こえ、一瞬手を止める。
すかさず、
「おい。床たらすな?」
と言うと
「ごめん。もー垂れた」
という言葉が返ってきた。
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