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おいおい。と思いつつ、泡だらけの手ではどうしようも無い事実に、
仕方なしに作業を一回中断して泡を洗い流す。
手を洗ってから、手近なタオルを掴むと、出しっぱなしの水で濡らし、蛇口を閉めて居間に歩いていった。
「あ」
と、自分の腕まで垂れたらしい甘い汁に、舌を伸ばす七原と目が合い、タオルを思いっきり投げつける。
「いてッ」
青いタオルはコントロール良く、七原の顔にヒットした。
「ガキみたいな事すんな」
煙草を口先で揺らしながら言うと、
半分ほど残っている桃(ちなみに皮もかなり残っていた)を片手に七原は頬を膨らませた。
川田はその事に気にせず視線を送ると(と、言うかもう慣れだ)顎で拭くよう指示した。
諦めの溜息。
それから七原は自分の腕を拭き、その次に汁の垂れた床を拭いた。
「桃はこんなにあまいのになぁ」
と、呟く。
「俺は桃じゃあれへんからな」
川田は大人しく言う事を聞く七原に満足し、短くなった煙草を灰皿に押し付けると踵を返した。
無論。そのままでは無く今日封の切られた『ワイルドセブン』に手を伸ばすと、新しいのを取り出し、口に咥え、それから灰皿近くに置いといた――七原がゲーセンで取ってきたらしい銀色のジッポ(何か変な柄がついていた気がしたが覚えてない)で手馴れたように火をつける。
微かに煙草から立ち上った灰煙は、川田の肺に消えていった。
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