桃/七川

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「桃だよ。桃」 「何処がどーなって桃なんや?」 ああ。さっきも似たような事いったなぁ。これが堂々巡りってやつか? 立ち止まった体を、もう一度七原に向けて川田は灰煙を吐いた。 「うーん…」 「どーなんや?」 桃を持ったまま考え込むんは決まらんな。そう川田は思った。 と、直後に床を見ていた視界が上がり、桃を一齧りして思い出したように七原が笑った。 「一皮めくればおいしい所が」 ポロ。 七原の一言に、川田は今度こそ本当に煙草を落とした。 落として、拾えなくなった。 「あ!やばいよ。火事になる」 動けない川田の変わりに、駆け寄った七原が煙草を灰皿に捨てた。 「お前……」 「ん?」 相変わらず桃を片手に、自分の声に反応し見上げる七原を見下げて、川田は頭を抱えた。 そして一言。 「あほやろ」 「!?」 本当に呆れた様に――どこか哀れんでさえいる様に――川田は言った。 そしてそれだけ言うと踵を返し、台所によろよろと引っ込んでいく。 後に残された七原は一瞬呆けて、 それからすぐさま『心外だ!』という顔をした。 「川田は桃なんだよ!!」 追いかけてきた七原が熱く語る。 「一見強面に見えるけど……つまりこれが皮ね!」 ガチャガチャと、何時もより乱暴に洗っているらしい食器はいつ割れても可笑しくは無かった。 「一皮剥く……つまりーッ!本当の川田を知ると、すっげぇ美味しい奴なんだよ!!」 おいおい。『いい奴』とかじゃなーて『美味しい奴』かい……。 さらに熱く語り始めた七原(どうやら酔い始めたらしい)を視界の…そりゃもう端っこに置きながら、川田は心中のツッコミと共に、深ーーい溜息をついた。
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