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文字と尊敬と恋心/三川
俺の叔父さん。
俺の尊敬する叔父さん。
俺の尊敬する叔父さんがその人の事を語る時。
俺の尊敬する叔父さんはとても誇らし気だった。
俺の左耳につけた美しい銀細工のピアスの『元』持ち主の女性。
その人は美しかった。
その人は容姿が美しかった。
その人は心が清らかだった。
その人はとても頭が良かった。
その人の『精神』が容姿まで美しく魅せていた。
と叔父さんは嬉しそうに語った。
『自分が尊敬できる人を好きになりなさい』
叔父さんは『必ずそうしなさい』とは言わなかった。それでも『尊敬』する叔父さんが、本当に誇らし気に言ったその言葉は、俺の心に精神的障害――トラウマの様に刻まれた。
中学に上がって、ふとそんな事を思い出した。
つい数日前に告白され付き合いだしたばかりの彼女に『三村くんの事が良く分からない…私の事本気で好き?』と泣かれた直後だ。
…――彼女の問いに俺は即答出来なかった。
彼女は、自分を取り囲むファンの中でも、可愛い部類に入っていた娘で、
『好き?』
と聞かれれば
『好きだゼ。ベイベv』
と答えられただろう。
だけど彼女の質問は
…――『本気』で好き?
だった。
彼女は『可愛いくて』好きだったけど、『尊敬』出来なかった。
大体、俺は運動神経はイイし、頭もイイ。…まぁ確かに国語と歴史はわるいけどさ、好きじゃない教科が悪くたって気にならないタイプなんだ俺は。それに勉強とかじゃなくて、根本的な問題として。たとえばハッキングとか、たとえば雑学的な知識とか。
その俺が『尊敬』する人って…どんなヤツだ?いるのか?同年代で。…年上でもさ。
…少ないと思う実際。合う確率もきっと低い。
ちょっと恨むな、俺が『尊敬』する叔父さん。
子供の頃の刷り込みって偉大だな。
…俺より上はいるだろうけど、俺が『叔父さん並に尊敬する』ヤツは少ないゼ?
「俺…マジな恋できるんだろうか…?」
晩夏の放課後。体育館裏。
彼女のビンタを食らった頬が、別の意味で痛かった。
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