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この物語は、華乃の何気ない一言から始まる。
それは、夕食の席での出来事…
「ねぇ先生?先生はどうやって近藤局長達と知り合ったんですか?」
華乃の突然の問いかけに、永倉は口に運んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「ゲホッ…ゲホゲホ…ッ」
「だ、大丈夫ですか!?」
盛大に噎せた永倉の背中を、華乃は慌てて擦る。
いつもの冷静な彼らしくないと思った。
「ゲホ…おまっ…藪(やぶ)から棒に何言って…」
「近藤局長達とは試衛館からの付き合いなんですよね?それなのに、剣の流派が違うのでちょっと気になって…」
「ただ流派が違うだけなら、左之も平助も山南副長だって一緒だろーが」
「私は先生のことが知りたいんです」
キラキラと好奇心たっぷりに見つめられ、永倉は言葉に詰まり口を閉ざす。
彼女から『先生』と呼ばれるようになって数日が経つが、なぜこうも懐かれたのか未だに疑問だ。
(知り合った経緯ねぇ…)
華乃には悪いが、あまり知られたくない過去だ。
どう話を誤魔化そうかと考えている時、後ろからプッという笑い声がした。
振り返ると、もう食事は済ませたのか、原田がニヤニヤしながら立っていた。
その姿に嫌な予感を覚える。
「そりゃ言いたくねぇよなぁ?試衛館には道場破りに来たって」
原田の言葉に、華乃はポカンと呆けた。
永倉はというと、額に手をあてて肩を落としている。
(やろ~…)
勝手にバラした原田のことが恨めしかったが、本当の事実なだけに反論も出来ない。
永倉は原田を睨み付けるだけに留めた。
「道場破り?って…え?先生が?」
目を丸くする華乃。
それも仕方がないだろう。彼女にとって永倉のイメージとは、温和で争いごとを好まない男なのだから。
「ほんとほんと。俺は先に入門してたから知ってっけど、初めて会った時の新八の気の荒ぇこと荒ぇこと」
「気が…荒い…?」
「武者修行の果てに、偶然試衛館に流れ着いたんだとよ。そこで近藤局長と意気投合したらしくそのまま滞在。で、今に至ると。な?新八」
華乃はますます面食らった。
(武者修行?道場破り?)
今の彼の姿からは想像もつかない。
「……左之…」
とうとう我慢ならなくなった永倉が、地を這うような声で原田の名を呼ぶ。
すると原田は「やべぇ」と呟き、逃げるようにその場を去った。
残された永倉は、隣で呆然としている華乃を見て溜め息をつく。
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