永倉①【道場破り】

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この物語は、華乃の何気ない一言から始まる。 それは、夕食の席での出来事… 「ねぇ先生?先生はどうやって近藤局長達と知り合ったんですか?」 華乃の突然の問いかけに、永倉は口に運んでいたお茶を吹き出しそうになった。 「ゲホッ…ゲホゲホ…ッ」 「だ、大丈夫ですか!?」 盛大に噎せた永倉の背中を、華乃は慌てて擦る。 いつもの冷静な彼らしくないと思った。 「ゲホ…おまっ…藪(やぶ)から棒に何言って…」 「近藤局長達とは試衛館からの付き合いなんですよね?それなのに、剣の流派が違うのでちょっと気になって…」 「ただ流派が違うだけなら、左之も平助も山南副長だって一緒だろーが」 「私は先生のことが知りたいんです」 キラキラと好奇心たっぷりに見つめられ、永倉は言葉に詰まり口を閉ざす。 彼女から『先生』と呼ばれるようになって数日が経つが、なぜこうも懐かれたのか未だに疑問だ。 (知り合った経緯ねぇ…) 華乃には悪いが、あまり知られたくない過去だ。 どう話を誤魔化そうかと考えている時、後ろからプッという笑い声がした。 振り返ると、もう食事は済ませたのか、原田がニヤニヤしながら立っていた。 その姿に嫌な予感を覚える。 「そりゃ言いたくねぇよなぁ?試衛館には道場破りに来たって」 原田の言葉に、華乃はポカンと呆けた。 永倉はというと、額に手をあてて肩を落としている。 (やろ~…) 勝手にバラした原田のことが恨めしかったが、本当の事実なだけに反論も出来ない。 永倉は原田を睨み付けるだけに留めた。 「道場破り?って…え?先生が?」 目を丸くする華乃。 それも仕方がないだろう。彼女にとって永倉のイメージとは、温和で争いごとを好まない男なのだから。 「ほんとほんと。俺は先に入門してたから知ってっけど、初めて会った時の新八の気の荒ぇこと荒ぇこと」 「気が…荒い…?」 「武者修行の果てに、偶然試衛館に流れ着いたんだとよ。そこで近藤局長と意気投合したらしくそのまま滞在。で、今に至ると。な?新八」 華乃はますます面食らった。 (武者修行?道場破り?) 今の彼の姿からは想像もつかない。 「……左之…」 とうとう我慢ならなくなった永倉が、地を這うような声で原田の名を呼ぶ。 すると原田は「やべぇ」と呟き、逃げるようにその場を去った。 残された永倉は、隣で呆然としている華乃を見て溜め息をつく。
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