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「驚いたか?」
永倉は苦笑しながら華乃に尋ねる。
(まぁ…驚くなって方が無理だろうな…)
過去といっても、そんなに昔の話じゃない。どちらかといえば、壬生浪士組として上京する前の出来事だ。
あの頃は、ただ強くなりたい一心で藩も抜け、がむしゃらに剣を振るっていた。
その為か、性格も今よりずっと荒んでいたし、左之の言う通りだという自覚もある。
道場破りだって、今は恥ずかしい過去の一つだ。
永倉は自嘲しながら華乃の返事を待つ。
すると彼女は、思いがけないことを口にした。
「確かに驚きましたが……嬉しいです…」
そう微笑んだ彼女に、次は永倉が面食う番だった。
「は?」
「私も昔、武者修行を兼ねて全国を流れていたんですよ。一緒だったなんて嬉しいです」
そう、高杉が上海に渡っている頃、華乃は剣を極める為に京都を離れていた。
「い、一緒って…お前も道場破りをしてたのか?」
「アハハ、まさか。私はどうも竹刀やら木刀が苦手で、道場相手に喧嘩を売るような真似はしませんでしたよ」
「はあ?じゃあ武者修行って…」
いったい何なんだ。
そう尋ねてきた永倉に、華乃は当時を思い出してクスクス笑う。
「私の場合はですねぇ、行く先々の賞金首を血祭りにあげてたんです」
思わず絶句する永倉。それに気付いていないのか、華乃はうっとりと言葉を続ける。
「剣の修行にもなって、ついでにお小遣いも稼げる。まさに一石二鳥でしたね。ああ、懐かしい…」
その彼女の様子は、まるで楽しい思い出を語るよう。だが、実際は生々しい情景だ。決して微笑ましいものではない。
永倉は頭痛のし始めた頭を抱えた。
(血祭り…)
それを聞くと、道場破りなんていう己の過去が、まだマシな気がしてくる。
「あ!そういえば私、江戸にも足を運んだ時期があったんですよ。もしかしたら、どこかで会っていたかもしれませんね」
「……もし会ってたら忘れてねーよ」
こんな強烈な女。
だが、本当に会っていたら?
(俺の人生も変わってたかもなぁ…)
永倉は緩みそうになる口元を、ギリギリ理性で引き結んだ。
そうして話を終えると、彼らは再び食事を続けたのだった。
時は遡る…
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