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「総司さんって、いつも楽しそうに人を斬りますよね」
そんな彼女の言葉に、沖田は「おや?」と首を傾げた。
「華乃さんは楽しくないんですか?」
「楽しく、は、ないですね」
そう言って華乃は、刀に付いた血糊を振り払った。
借り物の太刀だが、大人数相手には懐刀より役に立つ。
そう、本日の任務は不逞浪士の一斉捕縛だった。
しかし、捕らえる筈だった浪士達は既に全滅している。
刀を抜いて抵抗された為、仕方なく正当防衛のもとに処分したのだ。
相手が十数人に対し、こちらは沖田と華乃の二人だけだった。
華乃は自分に牙を向く者だけを斬ったが、沖田総司、彼は違う。
沖田は、例え敵が命乞いしようが詫びようが、始終笑顔で斬り捨てていった。
「……総司さんは、斬られる相手が何を思って死んでいくか考えたことありますか?」
「え?…そりゃ、痛いなぁ…とかですかねぇ?」
「あはは、貴方らしいですね。分かっていても容赦ないんですから」
「その人の気持ちはその人にしか分からないものじゃないですか。いちいち気にしてられませんよ。それとも貴女は、相手に同情しながら斬ってるんですか?」
「いいえ?同情してたら剣なんて振るえませんよ。私は常に、相手から恨まれる覚悟で殺してます」
「じゃあ…何でそんなこと訊くんです?」
彼女の言いたいことがさっぱり分からない。
沖田が訝しげに眉を寄せると、華乃はフッと寂しげに笑った。
「…別に大した意味なんてありませんよ。ただ、もし…貴方と私が…闘う羽目になったら……やっぱり貴方は、笑っているのかなって…」
その言葉には、さすがの沖田も面食らい、慌てて首を左右に振った。
「な、何言ってるんですか!私が貴女を手にかける筈ないでしょう!?」
以前ならまだしも、彼女を想う気持ちを自覚した今、自ら傷つけようなんて決して思わない。
「ふふ、本当ですか?」
「当たり前です!」
そう答えた時も、彼女はやはり困ったように笑っていた。
あの時、彼女は気づいていたのだろうか?
こうなることを…。
目の前に立ちはだかるのは、愛しい貴女。
「私が…」
ああ…
「…華乃さんを…」
やっぱり笑えませんよ…
「……殺す…」
どうしてこうなってしまったのだろう…
私はただ、一緒に楽しく過ごしたかっただけなのに…
もう戻れないあの日に思いを馳せて。
沖田①【完】
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