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「あ~…のどかだなぁ……」
その日非番の藤堂は、縁側から足を投げ出し、後ろに手を着いて空を眺めていた。
(いつも誰かさんのせいでゆっくりで心休まる日がなかったもんなぁ…)
その誰かさんとは言うまでもないだろう。じーんと平和を噛み締める藤堂から、日頃の苦労が窺えた。
(小倉さんも珍しく出掛けてるし)
そう、華乃はここにはいない。藤堂にひとつの忠告をし、夕方には戻ると言って出掛けていたのだった。
ちなみに忠告とは、
(伊東先生と二人っきりになるなってどーゆーこと?)
どのみちお忙しい方だ。言われずともそういう機会は滅多に訪れないのに。と、藤堂はやや不審に思ったが、それ以上は深く考えなかった。
今は何も考えずに、この休日を満喫したい。
しかし、そう思った矢先……
「華乃ねーさまー!遊びに来たでー!華乃ねーさまー!!」
元気一杯な女の子の声は聞かなかったことにし、藤堂は相変わらず空を眺めていた。が、その顔は若干引きつっている。
「華乃姉さまー!華乃姉さまー!華乃姉さまったら華乃姉さまー!」
無視無視無視………
あくまで聞かない振りを決め込む藤堂。しかし、そこへ現れた土方によって彼の抵抗は呆気なく敗れる。
「おい藤堂!小倉はどこだ!?あのじゃじゃ馬娘が煩くて敵わねぇ…っ」
「あ~……アイツは今、刀研ぎに鍛冶屋に行ってるんですよ」
「ちっ。なら藤堂、あのガキを小倉んとこへ連れていけ」
「はあ!?俺今日非番なんスけど!?」
「知るか。これは副長命令だ。分かったらさっさと行け」
「鬼~~~~~~!」
こうして、彼の平和な休日は終わった。
数分後。藤堂は千津を連れて街の往来を歩いていた。その足元にはヘースケの姿も。
「頼んだぞヘースケ」
「ワン!」
京の街は広い。一口に鍛冶屋と言えども、どの鍛冶屋なのか見当がつかなかった彼は、犬のヘースケに華乃の匂いを辿らせていた。
「あ~あ、どうせなら沖田はんが良かったのに」
隣で不満を言う千津に、藤堂は口元を歪めてふっと笑った。落ち着け俺、相手は女の子だ。
「……総司さんはやめておいた方がいいよ。これ幸いにと君を斬って置き去りにするだろうから」
「沖田はんはそんな人じゃあらへん!!」
「………」
どこからそんな自信がやって来るんだか。よく恋は盲目と聞くが、まさにだなと思った。
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