藤堂②【彼の悲運】

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そうして暫く歩いていると、急にヘースケが駆け出した。見ると、ヘースケの向かう先には一軒の鍛冶屋。 (ああ、あそこか) 内心ホッとしたのも束の間、その時、どこからかともなく喧騒が聞こえてきた。 喧嘩だろうか。もし相手が武士なら周りの市民が危ない。 (あーもう!だから俺は非番だってのに…!) 藤堂は腹をくくると千津へと振り返った。 「小倉さんはあそこだよ。もう一人で大丈夫だよね?俺、ちょっと用事が出来たから行くね」 彼はそれだけ言うと、「え?」と戸惑う千津を残して颯爽と駆けていった。 「なんやったの…?」 一方、千津は呆然と立ち尽くしていた。ただの一般人である彼女の耳は、先程の喧騒を聞き取れなかったらしい。 暫く首を傾げていた千津だが、まぁいいやと踵を返す。華乃の居場所も分かったことだし、いつまでも突っ立ってる場合じゃなかった。 しかし、いきなり現れた男にサッと行く手を阻まれる。 「………誰や」 ニヤニヤいやらしく笑う男を、千津はキッと睨み付けて言う。 「見てたんだよ。あんた男に置いてかれたんだろ?可哀想に。俺が慰めてやろーか?」 「結構や」 「そう言わずにさぁ……」 懲りずに言い寄ってくる男に、千津はグッと拳を握った。元々気の強い彼女の頭には、誰か助けを呼ぶという選択肢はないようだ。 「嫌やてゆうて……」 今まさに彼女が鉄拳をお見舞いしようとした…その時、 「ぐえっ」 まるで蛙が潰れたような声と共に男が吹っ飛んだ。 「……ヘースケが来たから何事かと思えば」 ハッと顔を上げる千津。するとそこには、彼女の敬愛する華乃が佇んでいた。 「貴方、運が良かったですね。お千津さんの目がなかったら、試し切りの材料になって貰っていたところですよ」 華乃は倒れている男の元へ近づくと、その襟首を掴みグッと引き上げた。 そして、男にとって死刑宣告にも等しい台詞を吐く。 「まぁだからと言って、この程度で済ます気もさらさらないんですけどね」 武士同士の些細なことから始まった喧嘩は、藤堂の乱入で事なきを得た。 それから彼が急いで元いた場所へ戻ると、なぜかそこには人垣が出来ていた。 「何かあったんですか?」 不思議に思って側にいた男性に訊ねると、その人は顔を青ざめながら答えた。 「可愛い女の子が悪漢に絡まれたらしいんだよ。それで……」  
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