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「…いいでしょう…。お梅さんに免じて、今回は見逃してあげます…」
そう言った華乃に、男の顔がパァッと輝く。
「本当か!?」
「次はありませんよ」
「ああ!ああ!ありがとう!」
「……お礼なら彼女に…」
すると男はグルリと向きを変え、お梅の手をギュッと握りしめた。
「本っ当にありがとう!あんたのおかげで命拾いした!」
「い、いえ…わたしは何も…」
ブンブンと取られた手を上下に振られ、当然ながら戸惑うお梅。
先ほど自分にヤジを飛ばした男とは、同一人物に思えない程の変わり身の早さだった。
それほど、華乃が恐れられているという訳だが、華乃の優しい顔しか知らないお梅は、いまいち男の気持ちが分からなかった。
「いい加減に離れて下さい。彼女が戸惑っているじゃないですか」
未だお梅の手を握っていた男を、華乃は力ずくで引き離す。
「す、すまなかった…」
「いえ…そんな…」
「さぁ、お梅さん行きましょうか。私も丁度、芹沢局長の部屋に向かうところでしたから」
と言って、ニコリと微笑む華乃。するとお梅も、「はい」とはにかんだ笑みを浮かべた。
そして華乃は、お梅を先に歩かせた後、彼女に気付かれないように男に振り返り、
「消えろ」
態度を一変をさせ、そう言い放った。
「は、はいぃ!」
彼が逃げるように去っていくのを確認し、再びお梅に視線を戻すと、今の叫び声が気になったのか、彼女が不思議そうにこちらを見ていた。
「今の声は…?」
「ふふ、何でもありませんよ。気になさらないで下さい」
「え?でも…」
「さぁさぁ、急ぎましょう。芹沢局長は短気な方ですからね」
「?」
普段と変わらず優しい華乃に、お梅は気のせいかと思い直す。
そうして彼女は、華乃と一緒に芹沢の待つ部屋へと向かったのだった。
ようやく静まり返る廊下。そんな中、先ほどの彼女達のやり取りを遠目に見ていた者達がいた。
朝稽古帰りの隊士達だ。
彼らは皆、今回のことで己の認識を改めることにした。
お梅、あの小倉華乃の上をゆく女。彼女にだけは手を出すべからず、と…。
お梅、最強伝説浮上。
お梅①【完】
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