🌸🍒短編小説集🍒🌸

Ｏｖｅｒ

「こういう者です」
どこから戸もなく名刺を取り出すと男に渡した。
「成仏させる会…会員003、杉並麻弥…？」
「三人しかいませんので」
「いや、そこを突っ込む気は無かったんだが…三人しかいないんかよ？」
「会と言っても組織的なモノですけど」
「三人だけで組織と言うのか疑問なんだが…」
「さて、どこからご説明しましょうか？」
都合が悪くなったのか話を変える麻弥に男は先程より深いため息を吐いて、さっき座っていた椅子に腰を下ろす。
「俺が死んでる理由だ、こうやって物に座れるし、呼吸もしてるぜ？どう説明するんだ？」
「長くなりますがよろしいですか？」
「なるべく手短に頼む」
ワガママですね。椅子に座れると貴方が判断していらっしゃるからです。呼吸をしていると言うのも生前の感覚というモノであって、物理的に貴方が存在していないのです」
男はその説明に突然大きな叫び声の様な笑い声を上げる。麻弥はただその光景を観察していた。
「アホ？！んな話誰が信じるって？てめぇが死ねよ」
意地が悪そうにそう言い捨てると再び立ち上がり、麻弥の髪を掴み上げる。
「このブスが！殺されてぇか！」
「見た目の悪口しか言えないなんて、頭の悪さが滲み出てますね。暴力にしか訴えられないのは低レベルな証拠です。」
麻弥の言葉に男は眉を吊り上げ拳を振り上げた。
「貴方の様な方を放っておくと悪影響が及びます。私は貴方を助けに来たのです。」
真っすぐな瞳に拳を下ろし、男は周りを見回す。今まで怒りで気が回っていなかったが、少女に対してこれだけ乱暴な事をしているのに、誰一人として足を止めない。その光景に頬に一筋の汗が伝う。男はゆっくりと、何かを確かめるように通行人に近づいていった。
人に声をかけようとした瞬間、腕を掴まれ男は振り替える。無表情で自分を見上げる手の主に、男はただ無言で動きを停止していた。
「これから逝く人には、あまり辛い思いはして欲しくありません。やめてください」
「俺は…死んだのか…？存在してないのか？」
「落ち着いてください、椎名さん。」
麻弥は優しく手を下げ、椎名の指に自分の指を絡めた。椎名はその行動に余程驚いたのか、肩の力が抜ける。麻弥が手を握っていなかったなら、たぶん狂い叫んでいた事だろう。
「私は貴方を助けに来たのです」