🌸🍒短編小説集🍒🌸

Ｏｖｅｒ

「私は物心付いた時から、こういう力を付ける修業をしていました。仲間と言うより同士達は、皆器が無く病死していき、私は選ばれたらしいのです。神にでしょうか？それとも人類に。死者の魂がどこへ行き着くかは存じませんが…私は私の役目を果たすだけです。」
「学校は？」
「必要ありません」
尚も無表情の麻弥に椎名は目を細めた。
「お前楽しい事って何かある？」
麻弥は立ち上がるとブロックで囲んである植木に近づいていった。椎名もつられて立ち上がる。
「花を愛で、自然に触れる。貴方には理解出来ないかもしれませんが」
小さな花を見下ろすと、麻弥は木に触れてみせる。
「ふ～ん」
風が吹き、短い麻弥の髪をなびかせる。椎名はただ、何も言わずその光景を眺めていた。
「100人居れば100通りの価値観、人生がある。当たり前の事です。おかしな事はありません。」
それだけ言うと再び椎名の元へ戻った。
「変わったヤツ」
椎名の言葉に無言で麻弥は顔を上げた。
「そうでしょうね」
それだけ言うと、椎名の服を摘む。
「少し歩いてみましょうか？早く記憶を戻しましょう」
「お前…そんなに早く俺を殺したいのか？」
「もう亡くなっている方が何をおっしゃいますか。これが私の役目だとさっきお話したばかりです。」
手を離すと麻弥は椎名の返答を待たずに歩き始めた。椎名は頭を掻きながら仕方無しに後を付いていく。いつもとなんら変わらない人込み。椎名は少し哀しげに、すれ違う人々を目で追った。
「大丈夫ですか？」
はっと我に返ると、そこには無表情に自分を見上げる麻弥がいた。二人の身長差は４０センチくらいあるだろう。その小さな少女を見て、椎名は自分の心に柔らかな心地よさを感じた。
「…大丈夫だ。」
それだけ言うと麻弥の頭を撫でる。
「何するんですか？」
頭を撫でられ少し不機嫌そうな麻弥に椎名は面白そうにさらに強く撫でまわす。
「いや、可愛いな～と」
「無意味な事ってないで何か思い出しましたか？」
「って…お前さあ…もう良いや」
諦めた様に椎名は手を離した。
「なぁ」
「なんです？」
「人って死んだらどこに行くんだ？」