🌸🍒短編小説集🍒🌸

Ｏｖｅｒ

一向に動こうとしない椎名に、麻弥は小さく息をついた。
「存じません。ただ…」
「ただ？」

「違うけれど、こちらと似た世界があると、私達の中では考えられています。」
「言ってる意味が分からないすけど？」
「なくなった方達が死後の世界でまた違う世界を作ってると」
「なんじゃそら…」
「理想郷…ですかね？苦しみがないそうで」
「…？？」
「だから良い人ほど徳があるので早く亡くなるのだそうな」
「訳わからねぇから良いや…」
麻弥の説明に椎名は、手を顔に当てた。
「ま！これから行くんだからな。どんな世界なのかはお楽しみということでだな！」
「楽しみなんですか？」
「…お前と話すの疲れるわ…」
「そうですか」
「お前さぁ」
「なんです？」
「死ぬまで…こんな仕事続けるのか？」
「仕事ではありません…決められたことです」
「辛くねぇのか？」
「いきなりなんですか…？」
「いや、お前見てるとさ…なんとなく」
年頃の少女がこんな人との別れを当たり前にしているのが、椎名の中で引っかかってしかたがなかったのだ。
「俺の周りに居る、お前と同じ年頃くらいの女達は遊びまくってんのにな…」
「はい？」
「あぁ～なんでもねぇ！」
その瞬間、一瞬何かが脳裏を過った。
「どうしました？」
「いや…今何か」
「もう一息ですかね」
麻弥はそう言うと顔を覗きこんだ。 その言葉に椎名は、自嘲的に微笑んだ。
「…いざこの世界から消えるとなると…やっぱり…恐いもんだな…なさけねぇ」
「死ぬと言うのはそんなものでしょう」
「でもまぁ、最後にお前みたいな奴に会えて損は無かったな」
「おかしな言い回しですね。光栄ですけど」
麻耶の柔らかい表情にまた頭を撫でる。