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唐突に、ルー君の熱弁を遮って、背後から声がかかった。
「ヤシュカ、レイナ様がお優しいからって、調子にのってサボってるんじゃない」
足音もなく、気配を感じさせないところで、逆に誰かわかる。
柔らかなバリトンの響きに、振り返らないままルー君が軽く手を振った。
「人聞き悪いなー、サボってんじゃなくて……」
「シューさん、気配消すのって癖なの?」
「職業病とでも言いますか」
自分に声を掛けたのが誰だかわかった途端、ルー君のたれ耳が一瞬でピンと立ち上がる。
「た、隊長殿?!」
シュナイダー・フォードック卿、通称シューさんは、猫ヒゲを撫でながら私の前にゆっくりと姿を現した。
「姫にケーキを勧めるのはいいが、お前はそろそろ減量しないと、隊から外すぞ」
「うっ、それだけはご勘弁を!!」
シューさんの引き締まった格好良い立ち姿に対して、比べたらいけないんだろうけどルー君はちょっと丸い。
ウサギだから体型が違うとかそういう理由じゃないらしい。
元々がっしりした骨格に筋肉やら他の肉やらがついているからのようだ。
しかし、猫がウサギを叱りつけている図はかなりメルヘンチック。思わず笑みが漏れそうなくらい。
ただし、怒られた内容はかなりシュール。
「お前この間もサボって、一日限定30食のミルカを食べる為に、店先で並んでたらしいな」
「えっ、や、何で、どっからそんなっ」
「私の情報網を甘く見るなよ」
ルー君、仕事はサボってちゃダメだよ。
ところで。
「ミルカって何?」
ちょっと空気を読んでない発言だって分かってたんだけど、つい聞いてしまった。
限定とか言うんだから、さぞ美味しいんだろうな。
「俺で良ければ今度一緒に食べに行きましょう! すごく美味いんですよ!」
「ヤシュカ……」
私につられてか、空気読んでない発言その二のルー君は、とうとうシューさんに一発キツイのをもらってしまったのだった。
ごめんねルー君。
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