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「恋人として、当然のことを言ったまでだよ」
その表情は、完全に私をからかっていた。
このやり取りが、本物になり得ないってわかっていながら、それでも、嬉しいという気持ちは自然に沸き上がった。
そんな気持ちとは裏腹に、実際に出てくるのは素直から程遠い、ひねくれた言葉。
「詐欺師になれるよ」
結井さんの顔が瞬時に引き攣る。
「罰ゲーム決定」
「えっ、嘘っ! 今のなし…っ! ごめんなさいっ、詐欺師なんて思ってない、ぜんっぜん思ってないっ!」
「本当かなぁ……?」
「本当だよ」
視線を逸らして言った後、恐る恐る振り返ると、しょうがないなって呆れた顔で結井さんは見つめていた。
「硝子工芸、見るんだろ」
「うん」
雅臣に会わなくても、”恋人ごっこ”の名目のもと、一時でも結井さんはあんなふうに私を見てくれただろうか。
姉にも同じことを言っているのだと思ったら、刺すように胸が傷んだ。
硝子工芸からはじまり、木工細工、シルバー細工の店をハシゴして、いつの間にか空は闇に染まろうとしていた。
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