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結井さんに出逢って、二ヶ月の時が経っていた。
姉の恋人ではあるけれど、結井さんが家に来たのは初対面の時だけだった。
会うのも会話するのもそれ以来ないけれど、結井さんの人柄とか、癖とか姉から聞いているせいか、毎日顔を合わせている錯覚に陥る。
いつからか、なんて、もう思い出せないけれど、ふとした時に結井さんを思い出すことが多くなっていた。
あの優しい顔が、記憶の中を過ぎって消えた。
そろりと音もなく近づいて来るものが何なのかなんて、考えるだけ無駄なこと。
季節は、夏の名残さえない、十月。
「お疲れ様です、お先に失礼します」
「お疲れー、気ーつけてな」
前日に降った雨で、吐息は白く染まって、肌を撫でつける風は小さな刺になって駆け抜けた。
相変わらず街はギラギラしていた。
いつもより早くあがったせいか、これから二次会に流れる人で溢れた通りは、活気始めたばかりだ。
開いた携帯電話の画面は、九時を表示していた。
まっすぐ家に帰る気になれなくて、時間を潰せる場所を探し歩いた。
「南里、ちゃん……?」
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