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驚きながら見つめた先に見慣れた車の後ろ姿を見つけて、携帯を耳に押し当てたまま青に変わった信号を駆け足で渡る。
『寒いから、早く乗って』
仕事が終わり次第連絡するって言ってたのに……。
「いつ来たの?」
「ん? 五分前くらいかな。予定より早く片づいたから驚かせようと思って」
本当はやらなきゃいけない仕事を明日に回しただけなんじゃないかと思いながらも一秒でも惜しむように会いに来てくれたことが嬉しくて、そっと言葉を飲み込んだ。
「南里、手冷たい」
「外、歩いてたから」
温かい手が冷えた指先を包み込む。
見つめ合って、互いに人目を気にしながら口唇が触れ合ってすぐに離れる。
それだけでは足りないと言うように抱き寄せられたあと、車は白く染まる闇の中を走りはじめた。
気持ちが通じ合ってまだ日が浅いせいか、ふとした時、幸せ過ぎて不安になる。
結井さんの指に光る同じリングを見て、そんなことはないと思いながらも夢見心地から抜け出せずにいた。
何度も悩んで、迷って、泣いて、ようやく浸ることができるようになった至福を前に、時々、馬鹿なことを考える。
朝目覚めたら、全部夢…なんて……。
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