【3】接近

5/15
前へ
/233ページ
次へ
   それだけ二人の距離が近くなったということなのか、わからないけれど。  姉に比べたら、私と結井さんが過ごした時間は、一瞬。  けれど、たった二時間、姉が知らない、私と結井さんだけの秘密の時間は、私の意志に反して肥大していく。  思わず口にしてしまいそうで、口を噤んだ。  言ってはいけない。  その時間を思い出して鼓動を速めても。  少しずつ、自覚してしまうけれど、喉元までせりあがってくる想いを、必死に呑み下す。  心の中でさえ、言ってはいけないこと。  結井さんは、姉の恋人。  破滅の言葉を吐き出してしまわないように、言い聞かせた。  きっと、まだ引き返せる場所にいるはずだから。  誰にも言わない。  気づかせない、秘め事。  私は、嘘つき。 「はい、南里。これ、久志くんの連絡先」 「あ、うん。後で連絡しとく」  微笑む姉を見て、鈍く胸が痛みだした。 「店長、お疲れ様です」 「お疲れ、気ィつけてな」
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2179人が本棚に入れています
本棚に追加