2179人が本棚に入れています
本棚に追加
それだけ二人の距離が近くなったということなのか、わからないけれど。
姉に比べたら、私と結井さんが過ごした時間は、一瞬。
けれど、たった二時間、姉が知らない、私と結井さんだけの秘密の時間は、私の意志に反して肥大していく。
思わず口にしてしまいそうで、口を噤んだ。
言ってはいけない。
その時間を思い出して鼓動を速めても。
少しずつ、自覚してしまうけれど、喉元までせりあがってくる想いを、必死に呑み下す。
心の中でさえ、言ってはいけないこと。
結井さんは、姉の恋人。
破滅の言葉を吐き出してしまわないように、言い聞かせた。
きっと、まだ引き返せる場所にいるはずだから。
誰にも言わない。
気づかせない、秘め事。
私は、嘘つき。
「はい、南里。これ、久志くんの連絡先」
「あ、うん。後で連絡しとく」
微笑む姉を見て、鈍く胸が痛みだした。
「店長、お疲れ様です」
「お疲れ、気ィつけてな」
最初のコメントを投稿しよう!