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煙草が半分灰になって、結井さんは口を開いた。
「南里」
その声は掠れていた。
ワイパーの動きを目で追いながら、独り言のように続ける。
「辛いと思うことがあるなら、吐き出しとけ。友達に言いにくいことなら、俺も美波もいる」
姉の名前が胸に重くのしかかった。
衣服が擦れる音がした。
結井さんが真っすぐ私を見つめる。
俯いたまま、私は目を向けることができなかった。
針の様に刺さる優しさ。
気持ちを闇に沈めようとしているのに、寄りかかってしまいそうになる言葉をかけないで。
独りでは立てなくなってしまうから。
狭いこの空間から飛び出すこともできずに、目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
こんなに傍にいるのに。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、絶望するほどに遠い。
なのに、簡単に心に入り込んでくる。
小さな想いのカケラが心に降り積もって、隠し続けた気持ちに触れる。
喉で燻って、今にも言ってしまいそうなのを無理矢理、呑み込んだ。
言えない。
言えない。
言エナイ…――。
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