【3】接近

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   煙草が半分灰になって、結井さんは口を開いた。 「南里」  その声は掠れていた。  ワイパーの動きを目で追いながら、独り言のように続ける。 「辛いと思うことがあるなら、吐き出しとけ。友達に言いにくいことなら、俺も美波もいる」  姉の名前が胸に重くのしかかった。  衣服が擦れる音がした。  結井さんが真っすぐ私を見つめる。  俯いたまま、私は目を向けることができなかった。  針の様に刺さる優しさ。  気持ちを闇に沈めようとしているのに、寄りかかってしまいそうになる言葉をかけないで。  独りでは立てなくなってしまうから。  狭いこの空間から飛び出すこともできずに、目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。  こんなに傍にいるのに。  手を伸ばせば届く距離にいるのに、絶望するほどに遠い。  なのに、簡単に心に入り込んでくる。  小さな想いのカケラが心に降り積もって、隠し続けた気持ちに触れる。  喉で燻って、今にも言ってしまいそうなのを無理矢理、呑み込んだ。  言えない。  言えない。  言エナイ…――。
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