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一言でも発したら、止められなくなる。
引き返せなくなる。
逢うたびに。
話すたびに。
笑うたびに。
こんな、沈黙でさえ。
考えている。
この人が、誰のものでもなければいい。
美波ちゃんなんか……。
思い浮かべてしまったことに、息を呑んだ。
何、考えてるんだろう。
私、いつからこんな嫌な奴になってた……?
嫉妬……してる。
息が詰まる。
胸中で渦巻く想いは、口にすることはできなくて、口唇を噛んだ。
こんな汚い感情、気づきたくなかった。
隣りにいるのが結井さんでなければ、吐き出せたのに。
言葉にできない代わりに、視界が揺れた。
堪えきれずに、その一粒が手に零れた。
「南里」
そんな優しい声で、名前を呼ばないで。
困らせるつもりなんてないのに、止められない。
滴が窓を叩く。
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