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気持ちごと、この雨に全て流れてしまえばいいのに。
みっともなく泣く姿を見られたくなくて、顔を逸らし、声を殺した。
「南里」
この現実が、夢であればいい。泣いて目覚めても、傍にいなければ、安心できるから。
けれど、その手は私の髪を撫でながら宥める。
リアルな悪夢。
縋ることなんてできるわけがないに。
なのに。
「気がすむまで、泣いていいよ」
緩やかに引き寄せられる。それが当たり前だと言うように。
背中に回された手が、温かくて。
拒絶、できない。
この一瞬だけ。
今だけ、この腕も、優しさも、自分だけのものだと思えば、少しは苦しみが和らぐだろうか。
今だけ、寄りかかれば、募る想いを預けたなら、答えは出るだろうか。
そんな想いを浮かべて、背中に回しそうになった手を口元にあてて、零れる声に蓋をした。
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