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抱き締められても、抱き締め返せない。
私の腕が背中に回るのは、罪。
越えられない壁は、頂上が見えないほど高く、果てしない。
痛くはないのに、押し潰されそうなほど苦しい心。
彼は、私を慰めながら、傷つける。
別な誰かのものだったなら、少しは楽なのに。
本当に、美波ちゃんのこと、好き…――?
聞けない。
押し込めた本音まで言ってしまいそうだから。
深く息を吸い込むと、さっきまで漂っていた煙草と、香水のほのかな香りがした。
滲む視界の中、白い花びらがガラスに舞い降りて、街灯に照らされてキラキラ光っていた。
一年の終わりが近づくこの日、好きな人の腕の中で初雪を見た。
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