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忘れられない。
この先、他の誰かを好きになる日が来ても。
結井さんは、泣き止むまで私を抱き締めたまま、何も言わなかった。
降り始めた雪が雨に戻っても、車内の時間は止まったままで、私だけに差し延べられた腕が離れてしまわなければいいと、思った。
どうして、私ではなかったのだろう。
口にできない想いは募るばかりで、言えない分、涙に変わった。
私が泣いた訳を結井さんが知る由もなく、ただずっと、名前を呼んで髪を撫でてくれた。
包み込んだのは、恋人の妹、だから。
抱き締めるべき相手がいるのに、何故。
姉の恋人に特別な感情を抱いてしまったことを悩んでいたのに、胸を借りて、また一つ、悩みが増えてしまった。
そして、秘密も。
言葉で、態度で優しさを与えられるたび、錯覚する。
時間を作って、二人が会っているのは考えなくてもわかってる。
もうすぐつき合って半年目を迎えようとしているのに、姉の口からは、飽きたとか、別れるといった言葉は聞かない。
飽きっぽい姉が、そんなことを言うどころか、結井さんを気遣って陰ながら支える側に回ろうとしている。
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