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「お姉ちゃんの恋人、だよ。会社が近くで、偶然会ったの」
「そうなんだ。え、じゃあ、店に時々迎えに来てる車って……」
「一緒だよ。遅い時間に一人で帰るのは危ないからって、送ってくれるんだ。すっごく過保護なお兄ちゃん持った気分だよ」
結井さんは、姉の恋人。
数え切れないほど浮かべて打ち消した事実が胸を締めつける。
この想いは、出してはいけない。
誰にも知られてはいけないから、何でもないって顔をした。
「へぇー。いいな。姫みたいじゃない?」
「そうかも」
「じゃあ……」
言いながら、美和ちゃんは企み顔を向けて身を寄せた。
「これからも宜しくって、ワイロも送っといたら」
「ワイロ?」
「送ってくれるなんて、可愛がられてる証拠じゃん。妹の権利、フル活用するために、だよ」
「あ、差し入れってことね」
「そうそ……、あ、そろそろ時間だ。ありがとね」
セットしていた携帯のアラームが鳴って、美和ちゃんは足早に店へ向かった。
残り少なくなった紅茶を飲み干して、私も腰を上げた。
「ありがとうございました」
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