【4】重症

11/11
前へ
/233ページ
次へ
   ごちゃごちゃと色んなことを浮かべているうちに、会社まで来ていた。 「裏口?」  入口正面のドアの前の、裏口をご利用下さいという立て札を見下ろして、見取り図の矢印の方へ向かった。  裏口の重いドアを開けてすぐの所に守衛室があるけど、そこには誰もいなかった。  薄暗い廊下を進んでエレベータを待つ。  持ち直したビニール袋のカサつく音と、鼓動がやけに大きく響いた。  お礼、お礼、お礼……。  心の中で何度も呟いて、深呼吸した。  これは、裏切りなんかじゃない。  休みたい時間を割いて送ってくれる結井さんへの気持ち、だから……。  ゆっくりと息を吐くと、暗闇に光が差して、足音を立てないように進んだ。  ほんの些細なこと。  結井さんからしてみれば、小さなこと。 『10階の一番奥だから、いつでもおいで』  いつだったか送ってもらった時の言葉を思い出して、その数字を目で追った。  急に来たりして、迷惑じゃ…ないかな……。  そう思ったら、ボタンを押す指が震えた。  
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2179人が本棚に入れています
本棚に追加