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扉を前に、息を呑んだ。
会社の真ん前まで来ておきながら、今更、躊躇う。
一つだけ明かりが灯るドアの向こうで仕事する結井さんを思い浮かべて、ノックしようと上げかけた手が彷徨う。
会社なんて初めて入るし、結井さん以外の人が出てきたらどうしよう、とか、またごちゃごちゃ考える。
もう一度、深呼吸した。
お礼だって言って、すぐに帰ればいい。
ノックしてしまえば、入るしかないんだから。
小さく頷いて、扉を叩いた。
「こんばんは……」
中が見えないように仕切られた受付で、恐る恐る声をかける。
静か過ぎて、情けない声が響いた。
しばらく待っても返事がなくて、顔だけ仕切りから覗かせると、明かりがついているだけでそこはもぬけの殻だった。
気が抜けて、深い溜め息をついた。
急に気恥ずかしくなった。
緊張しながらも、疲れた顔で仕事する結井さんが、私からの差し入れに喜んでいる姿を想像して、一人で舞い上がっていた。
はっきり言って、都合のいい妄想だ。
全てが想像通りに運ぶなら、こんなに一喜一憂したりしない。
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