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高校時代につき合っていた彼には、いつも可愛くないと言われて、その度に卑屈になった。
「ねぇ、久志くんて、南里のタイプじゃない?」
「何、言ってるの。優しいお兄さん、くらいにしか思ってないよ」
「ふーん」
気のない返事をしながら、姉は雑誌をパラパラとめくっていく。
平静を装いながら、焦る心。
鼓動が速まっているのは、図星を指されたせい。
まさか、そんな筈、ない。
脳裏を過ぎった結井さんの優しい笑顔に、息を呑んだ。
ジワジワと侵食されるみたいで、心がざわついた。
きっと、気のせい。
初対面だし、あの人は姉の恋人だと、わかりきった事実を心の中で呟いて、蓋を閉めた。
カタカタと音を立てて、やがて、静まる。
思い出したりしなければ、口に出さず、態度にも出さなければ、自由にそよぐ風のように通り過ぎていくから。
間違いと言い聞かせて、心の深い場所に、僅かな想いを閉じ込めた。
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