“彼女”という人。

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「昔話?何で?」 「いいから聞けっての。──莉音はねぇ…昔はあんなに内気で控え目な子じゃなかったわよ。もっと明るくて人懐っこくてお人好しで‥無邪気だった。それでもやっぱりどこか線を引いて人付き合いしてたなぁ…」 昔を懐かしむように小春は呟いた。 「莉音は確かに有名な両親との間に生まれたサラブレッド。でも才能があるわけじゃなかったのに周りは“映画関係”と“音楽”は出来て当たり前だと思ってた。だから学校の先生もクラスメートも全員が莉音が才能に恵まれてると思って色んな事をさせてた――ピアノに自主映画撮影にバイオリンに…ああ、合唱と演劇もやらされてたわね」 指折りしながら小春はさらに続けた。 「でも莉音が才能を見せたのは合唱だけ。みんな一気に冷めてったのよ。女子は特に陰湿だった。今までちやほやしてた分それが全部妬みと侮蔑に変わってって───莉音は女子にイジメられるようになった」 「何でだよ?」 突っ込めずにいられなかった一至は口を開いた。 「よく覚えておきなよ。──女って例え子供でも大人でも頭の中に“黒い”感情がどっかにあるの。それが爆発すると自分のしてる事を正当化するもんよ?」 「な、なんだよそれは‥」 「まあとにかく──莉音はイジメに合ったわけよ。“母親がバイオリニストのクセに楽器は何にもやれない”とか“演技がヘタクソ”とかね?陰口はもちろん、物を隠されるのも日常茶飯事…酷い時は下校する時は追っかけ回されて集団に囲まれて散々ネチネチ言われて暴力もされてたわね──そのせいで人間は特に女の子は信じられなくなって‥元々両親の事がトラウマになってたのよね。だから人を信用出来ない自分にも周りの期待に答えられない自分にもどんどん自信をなくしてって今の莉音になったわけ」 「お前は何してたんだよ?」 「ある時見かねたあたしが莉音を助けたの。って言っても‥莉音の心の中に出来たおっきな穴は最初に話しかけた時は閉じてはくれなくてね、何度か助ける内に莉音があたしに心を開いてくれた。だから莉音は今このクラスであたし以外の女の子に近寄らないでしょ?」 言われてみれば確かにそうだ。この3日間莉音が小春以外の女子といる所を一至は見た事がない。まるで小春以外は敵だ、と自分の世界にいないものだと思ってるように見える。よほどトラウマが激しいようだ。
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